「自分が亡くなったあと、誰がどう動いてくれるのだろう」というご相談を、ご家族のいらっしゃらない方や、配偶者と死別された方から伺うことが増えています。配偶者・お子さんがいらっしゃらないご家庭では、判断能力が衰えたときの支え、亡くなった直後の事務、そして相続のあり方まで、ご家族のいるご家庭とは少し異なる準備が必要になります。
本記事では、おひとり様の相続・終活において元気なうちに整えておきたい仕組みと、死後事務委任契約で具体的に任せられる内容を整理します。
1. おひとり様の相続が抱える特殊事情
おひとり様のご家庭では、次のような特殊事情があります。
- 法定相続人がご兄弟姉妹・甥姪に限られる、あるいは不存在となるケースがある
- 判断能力が衰えたときに支えてくれる近親者が限られがち
- 亡くなった直後の事務(葬儀・納骨・施設費精算・関係者連絡)を担う方が不明確になりやすい
- 相続人がどなたもいらっしゃらない場合、最終的に財産が国庫に帰属することがある(民法959条)
これらは、お元気なうちにご自身で仕組みを整えておくことで、ある程度カバーすることが可能です。
2. まずは法定相続人を確認する
最初のステップは、ご自身が亡くなったときに法定相続人となる方を確認することです。
法定相続人の優先順位は、配偶者を別にすると、子(第1順位)→ 親などの直系尊属(第2順位)→ 兄弟姉妹(第3順位)の順となります。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その子(甥姪)まで代襲相続が認められます(民法889条)。
たとえば、お子さんのいらっしゃらないご夫婦の場合、配偶者だけでなく、ご両親、またはご兄弟姉妹・甥姪が相続人に加わります。生涯独身の方の場合は、ご兄弟姉妹や甥姪が相続人となるか、誰も相続人がいない状態となります。
「自分の財産が、何もしなければ誰に渡る形になるのか」を最初に把握することが、その後の設計の出発点になります。
3. 元気なうちに整えておきたい4つの仕組み
おひとり様の終活設計では、次の4つの仕組みを組み合わせて考えていきます。
- 遺言書:法定相続によらず、ご自身の意思で財産の行き先を決められる書類です。公正証書遺言、または法務局保管制度を利用した自筆証書遺言が安心です。
- 任意後見契約:判断能力が衰えたときのサポート役を、お元気なうちに契約で決めておく仕組みです。公正証書で結びます。
- 死後事務委任契約:葬儀・納骨・施設費精算・関係者連絡などの「亡くなった直後の事務」をあらかじめ受任者に委任しておく契約です。
- 見守り契約・財産管理委任契約:判断能力に問題が出る前から、日常的なサポートや財産管理を受けるための契約です。任意後見契約と組み合わせて結ぶこともあります。
これらを組み合わせることで、生前のサポートからご逝去直後の事務、そして相続まで、ひと続きの流れとして設計することが可能になります。
4. 死後事務委任契約で任せられること
おひとり様のご準備で、特に大きな役割を果たすのが死後事務委任契約です。具体的には、次のようなことを受任者にお任せできます。
- 葬儀・火葬・納骨・永代供養の手配
- ご親族・ご友人・勤務先・関係機関への連絡
- 入院費・施設利用料の精算
- 公共料金・通信契約・サブスクリプションの解約
- 賃貸住宅の明け渡し・残置物の整理
- ペットの引き取り手配
- SNSアカウント・デジタル資産の処理
死後事務委任契約は、任意後見契約とセットで公正証書として結ばれるのが一般的です。お元気なうちに「自分が亡くなったあと、誰に何をどう動いてもらいたいか」を契約で具体的に決めておくことで、ご親族やお知り合いに負担をかけずに済みます。
なお、相続手続き本体(遺産分割・預貯金の名義変更・不動産の相続登記など)は、相続人や遺言執行者が担う領域となり、死後事務委任契約では取り扱えません。この部分は遺言書を併用することで設計できます。
5. 「誰に遺すか」の選択肢
おひとり様の相続では、「誰に財産を遺すか」を遺言書で明確に決めておくことが、特に大きな意味を持ちます。
- ご兄弟姉妹・甥姪
- ご友人・お世話になった方への遺贈
- 公益団体・福祉施設・母校等への遺贈寄付
法定相続人がいらっしゃらないご家庭でも、遺言書で誰かに遺すと決めておけば、財産を国庫に帰属させずに、ご自身の希望する形で渡すことができます。
なお、相続人がいらっしゃらない場合に、被相続人と生前に特別な関係があった方(療養看護に努めた方など)が家庭裁判所に申し立てて財産分与を受ける制度として、特別縁故者制度(民法958条の2)も用意されています。ただし、確実に渡したい方がいらっしゃる場合は、遺言書で意思を明確にしておくのが安心です。
6. 検討しておくとよいタイミング
任意後見契約も死後事務委任契約も遺言書も、ご本人にしっかり判断能力があるうちでないと結ぶことができません。
- 配偶者と死別された後
- 60代・70代の節目
- 健康状態に変化があったとき
- ご親族とのつながりが少しずつ薄れてきたと感じたとき
このようなタイミングで一度立ち止まり、全体像を整理しておくと安心です。「まだ元気だから」と先延ばしにしてしまいがちですが、契約内容を一緒に詰めるにも、受任者となる方との信頼関係を築くにも、相応の時間が必要です。早めに動き出すほど、選択肢の幅が広がります。
7. まとめ
おひとり様の相続・終活設計では、遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約・見守り契約等を組み合わせることで、判断能力が衰えてからご逝去後の整理までを、ひと続きの流れとして設計できます。特に死後事務委任契約は、葬儀・施設精算・各種解約手続き・残置物整理といった「亡くなった直後の事務」を具体的に任せられる仕組みとして、おひとり様のご準備で大きな役割を果たします。
行政書士杉山翔事務所では、遺言書作成、任意後見契約、死後事務委任契約、相続手続きを通したご相談を承っております。「どこから手をつけたらよいか分からない」段階のご相談も歓迎いたします。
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※ 本記事は民法(特に第889条・第958条の2・第959条および委任に関する規定)、「任意後見契約に関する法律」、法務省「成年後見制度」「法定相続情報証明制度」公表資料を参照して作成しています。具体的な手続き・契約内容については、公証役場や専門家にご確認ください。