「親なき後」は、障害のあるお子さんを持つご家族にとって避けて通れないテーマです。何かしなければ、と感じてはいても、何を、いつ、どこから始めればよいのかが見えづらく、結局そのままに、というご家族も少なくありません。
本記事では、親の年代別に「今やっておくとよいこと」を整理します。30〜40代の基盤づくりから、50〜60代の具体化、70代以降の引継ぎまで、時系列で見渡せるロードマップとして使っていただける構成にしました。
1. 親なき後で考えるべき5つの柱
「親なき後」の備えは、次の5つの柱で整理すると見通しが立ちやすくなります。
- 経済基盤:障害年金、生命保険、信託、障害者扶養共済制度などの選択肢があることを知る
- 住まい:将来どこで暮らすか(自宅・グループホーム・入所施設)
- サポート体制:後見人・受任者・相談支援
- 法的整備:遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約
- 公的サービス:日中活動の場、住まいの選択肢
それぞれの柱を、お子さんの年齢と親の年代に合わせて、少しずつ手を入れていくイメージです。
2. 30〜40代:基盤づくりの時期
お子さんが幼少期〜学童期にあたる時期です。日々の生活は児童発達支援や放課後等デイサービスといった目の前のサービスが中心になりますが、並行して、将来に向けた「基盤づくり」を少しずつ始めていける時期でもあります。
この時期に取り組んでおきたいこと
- ご家族の財産状況の把握:預貯金・不動産・有価証券・保険・負債の全体像をリストにする
- 生命保険・養老保険の検討:お子さんに残す財産を作る方法のひとつとして
- 障害者扶養共済制度の存在を知っておく:都道府県が運営する保護者向けの制度があり、加入時期が早いほど掛金が抑えられる傾向にあります(詳細はお住まいの都道府県窓口へ)
- ご兄弟姉妹がいらっしゃる場合:家族で「親なき後」について話し合う土壌を、少しずつ作っておく
- エンディングノートを書き始める:ご家族への意思伝達と、ご自身の頭の整理を兼ねて
この時期は「決めきる」というより「選択肢を知り、家族で話し合う土台を作る」ことが中心です。
3. 50〜60代:具体化の時期
お子さんが成人を迎える前後の時期で、進路(一般就労・就労支援・生活介護等)が定まり、住まいの選択肢を具体的に考え始める時期にあたります。親自身も、まだ判断能力に問題はないものの、いずれ自分が動けなくなることを現実的に意識し始める段階です。
この時期に取り組んでおきたいこと
- 遺言書の作成:法定相続によらず、お子さんに必要な財産を確実に渡すための準備。公正証書遺言であれば、お子さん本人が手続きできなくても遺言執行者が代行できるため、特におすすめです
- 親自身の任意後見契約:親自身の判断能力低下に備え、お子さんを支える役割の継続性を確保する
- お子さんの後見の手当て:成年後見と任意後見の組み合わせ、信託の活用などを、お子さんの判断能力に応じて検討
- 住まいの選択肢の見学・体験:グループホームを中心に、お子さんに合った場を探す
- 信託の活用も選択肢として知っておく:特別障害者扶養信託(特定贈与信託)や家族信託といった財産承継の方法があります。実際の組成は信託銀行や司法書士・税理士の領分となるため、具体的な検討の際には専門家への相談を組み合わせる形になります
- 相続税の試算:基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えそうな場合は、早めに税理士へ相談
この時期は、行政書士領分の準備(遺言・任意後見・死後事務委任契約)と、他資格と組み合わせる準備(信託・税務)の両面が並走します。
4. 70代以降:実行と引継ぎの時期
親自身が高齢を迎え、これまでに準備してきた仕組みを実行・確定し、安心して引き継ぎを進めていく時期です。いつ動けなくなってもよいよう、書類と関係性を整える段階に入ります。
この時期に取り組んでおきたいこと
- 任意後見契約の発効に備える:判断能力の低下が見られた段階で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。受任者や周囲のご家族と、申立てのタイミングを事前に共有しておく
- 死後事務委任契約の見直し:内容が現状に合っているか、ご逝去後の事務処理がスムーズに進む設計になっているか
- 遺言書の見直し:家族構成・財産状況の変化を反映し、内容が陳腐化していないか確認する
- お子さんの住まいの確定:自宅で暮らし続けるのか、グループホームに移るのか、入所施設も視野に入れるのか
- 信頼できる人・専門家のネットワークを作る:ご兄弟姉妹、行政書士、司法書士、税理士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、相談支援専門員など、領域ごとに頼れる相手を整理しておく
「親なき後」は、ある日突然訪れるとは限りません。親自身の判断能力が落ちる時期と、親が亡くなる時期が分かれて訪れることが多いため、その両方を見据えた設計が必要です。
5. ご家族の状況に応じた優先順位
5つの柱と年代別チェックリストは共通の見取り図ですが、実際の優先順位は、ご家族の状況によって異なります。
- ご兄弟姉妹がいらっしゃるご家庭:兄弟姉妹に過度な負担をかけずに、それでもお子さんを支える設計にするには、遺言・信託・後見の組み合わせを工夫する余地があります
- 一人っ子のご家庭:第三者後見(専門職後見人)や、公益団体への遺贈寄付など、第三者の力を借りる仕組みを早めに検討
- お子さんの障害特性:知的・身体・精神・発達のいずれが中心かによって、住まいやサポートの設計、必要となる公的サービスが変わります
「うちの家庭ではどこから手をつけるべきか」が見えにくい場合は、まず5つの柱と年代別チェックリストを照らし合わせ、抜けている領域を見つけることから始めると、次の一歩が見えやすくなります。
6. まとめ
「親なき後」の備えは、特別な専門家でなければ進められないものではありません。30〜40代から基盤を整え、50〜60代で具体的な仕組みを作り、70代以降で実行と引継ぎを行う、という時系列に沿って、少しずつ準備を積み重ねていくことができます。
すべてを一度に決める必要はなく、3年・5年単位で段階的に整えていく形でも十分に間に合います。大切なのは、後回しにしないこと、そして家族で話し合う場を持ち続けることです。
行政書士杉山翔事務所では、遺言書の作成、任意後見契約、死後事務委任契約、財産目録の整理、相続手続きといった「親なき後」の備えに関わるご相談を承っております。「どこから手をつけたらよいか分からない」という段階のご相談も歓迎いたします。年金・税務・登記・労務など、他の専門家の領域については、必要に応じて提携の社会保険労務士・税理士・司法書士をご案内します。
ご相談はお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
※ 本記事は障害者総合支援法、児童福祉法、民法、関連する厚生労働省告示・通知を参照して整理しています。各制度の詳細・最新の運用については、お住まいの自治体および各専門家にご確認ください。