「自分たちが亡くなった後、この子はどうやって生きていくのだろう」— 障害のあるお子さんがいらっしゃるご家族から、よく伺うご不安です。

「親なき後」と呼ばれるこの課題は、ご両親が元気なうちから少しずつ準備を重ねることで、不安を具体的な備えに置き換えていくことができる領域でもあります。

本記事では、障害のあるお子さんを持つご家族の相続準備で押さえておきたいポイントを、一般的な相続準備との違いに着目しながら整理します。

1. 一般的な相続準備と異なる3つのポイント

障害のあるお子さんを含む相続準備は、一般的な相続とは異なる視点が必要になります。

1-1. お子さんの「これから」を中心に考える

通常の相続は「亡くなる方の意思」を起点に組み立てますが、障害のあるお子さんがいるご家族の場合、「お子さんが生涯を通じてどう生活していくか」を起点に逆算して設計するアプローチが有効です。

衣食住・医療・福祉サービス利用料・余暇活動などにかかる費用を月額・年額・生涯で試算し、必要な財産規模を把握することから始めます。

1-2. お子さんが財産管理できない可能性

知的障害・精神障害があり判断能力に支障があるお子さんの場合、遺産を直接相続させても、本人による財産管理が難しいことがあります。

このような場合、後見制度や信託の仕組みと組み合わせて「遺すだけ」ではなく「使える形で遺す」設計が重要になります。

1-3. 公的給付・福祉サービスとのバランス

相続によって本人が一定額以上の財産を持つと、生活保護や障害基礎年金、福祉サービスの利用者負担に影響することがあります。

「いま受けている公的給付や減免制度」と「相続後の生活設計」を一緒に考えることで、お子さんの生活がより安定します。

2. 早めに準備しておきたい4つのこと

2-1. ご家族の財産を整理する

最初の一歩は、ご家族の財産の全体像を把握することです。

  • 預貯金・有価証券
  • 不動産(自宅・実家・収益物件)
  • 生命保険
  • その他資産(車・貴金属・美術品等)
  • 負債(住宅ローン・連帯保証等)

これに、お子さんが将来必要とする生活費の試算を重ねることで、「いくらをどのような形で残せばよいか」の全体像が見えてきます。

2-2. 遺言書を作成する

遺言書がないと、亡くなったあとのお子さんへの財産配分は法定相続のとおりになります。ご兄弟姉妹がいらっしゃる場合、お子さんの取り分が思うように確保できなかったり、財産分割の手続きでお子さんが不利益を被ったりする可能性があります。

遺言書では以下のような配慮が可能です。

  • お子さんに必要な財産を確実に確保する配分
  • ご兄弟姉妹に「お子さんの面倒を見ること」を遺言で願う形で残す(付言事項)
  • 遺言執行者を指定して相続手続きをスムーズにする

公正証書遺言であれば、原本が公証役場に保管され、遺言執行者が手続きを代行できるため、相続発生後にお子さん本人が手続きに関与しにくい場合でも、円滑に進めやすい仕組みになります。

2-3. 後見制度を理解しておく

判断能力にサポートが必要なお子さんの場合、成年後見制度の利用を検討します。

  • 法定後見:すでに判断能力に支障がある方向け。判断能力の程度に応じて補助・保佐・成年後見の3類型に分かれ、家庭裁判所が類型を判定して後見人等を選任
  • 任意後見:将来に備えて、本人が元気なうちに後見人を契約で決めておく方式

ご両親がご健在のうちは「親が事実上の支援者」として動けますが、ご高齢になると逆に親自身がサポートを必要とする側に。親自身の任意後見契約と、お子さん本人への後見の手当を並行して考えるのが現実的です。

2-4. 信託の検討(特定贈与信託など)

財産を「遺す」だけでなく「長期にわたって計画的に使える形で遺す」ためには、信託の活用も選択肢です。

特に特定贈与信託(特別障害者扶養信託)は、特別障害者の方を受益者として、最大6,000万円(特別障害者)または3,000万円(特別障害者以外の特定障害者)まで贈与税非課税で信託できる制度で、生活資金として安心して使える仕組みです。

家族信託(民事信託)も、ご家族のニーズに応じた柔軟な財産管理スキームとして近年活用が広がっています。

3. 全体像が見えにくいテーマであること

このテーマでよく伺うのが「何から手をつければよいか分からない」というお声です。専門領域が福祉・税務・法務にまたがり、それぞれの制度が連動しているため、全体像をひとりで描きにくいことが背景にあります。

実務的には、お子さんの現在の状況と、ご家族の財産・暮らしの全体像を整理することから着手し、優先順位の高いものから段階的に整えていく形が現実的です。すべてを一度に決める必要はなく、3年・5年単位の中期計画として組み立てる方法も取れます。

4. 早めに動く価値

「まだ元気だから」「もう少し落ち着いてから」と先延ばしにしてしまいがちですが、ご両親の判断能力・体力がしっかりしているうちに準備を進めることで、選択肢の幅が大きく変わります。

特に、

  • 公正証書遺言の作成は判断能力が必要
  • 任意後見契約も判断能力が必要
  • 特定贈与信託の設定にも時間と書類整備が必要

これらは、ご両親がお元気なうちに動き出すことで、選択肢の幅を確保しやすくなる領域です。

5. まとめ

障害のあるお子さんがいらっしゃるご家族の相続準備は、お子さんの生涯にわたる生活設計と財産設計を重ねて考える領域です。一般的な相続準備よりも検討すべき論点が多く、専門領域も福祉・税務・法務にまたがるため、段階的に整えていく前提で組み立てることが現実的です。

行政書士杉山翔事務所では、障害のあるお子さんがいらっしゃるご家族の相続・遺言・後見の準備に関するご相談を承っております。「何から始めたらよいか分からない」という段階のご相談も歓迎いたします。税務・登記・紛争性のある事案については、必要に応じて提携の税理士・司法書士・弁護士をご案内します。

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※ 本記事は民法(特に第887条以下の相続、第960条以下の遺言、第838条以下の後見)、相続税法第21条の4(特定贈与信託)、障害者扶養共済制度関係規定を参照して整理しています。各制度の具体的な適用・税務上の取扱いについては、最新の法令・通達および専門家へのご相談をおすすめします。