遺産分割は相続人全員の合意がなければ成立しません。そのため、相続人の一人と連絡が取れないだけで、預金の払戻しも不動産の名義変更も止まってしまいます。「一人だけ音信不通で、どうすればいいのか分からない」というご相談は少なくありません。

ただ、ひと口に「連絡が取れない」といっても、その中身はさまざまです。連絡先を知らないだけなのか、所在は分かるが返事をくれないのか、そもそも行方が分からないのか、生きているかどうかも分からないのか。どこでつまずいているかによって、とるべき手立ては変わります。本記事では、状況を切り分けながら、それぞれの進め方を整理します。

1. まず「どう連絡が取れないのか」を切り分ける

対応を考える出発点は、連絡が取れない理由をはっきりさせることです。大きく分けると、次の四つの状況が考えられます。

一つ目は、連絡先を知らないだけで、調べれば所在にたどり着ける場合。二つ目は、所在は分かっているのに、話し合いに応じてくれない場合。三つ目は、住所を調べても行方がつかめない場合。四つ目は、行方が分からないうえに、生きているかどうかも長く不明な場合です。

同じ「連絡が取れない」でも、この四つでは打ち手がまったく異なります。順番に見ていきます。

2. 連絡先を知らないだけのとき

疎遠で連絡先を知らない、というだけであれば、多くは所在を調べることで解決します。

相続人が誰であるかは、亡くなった方の戸籍を出生から死亡まで遡って集めることで確定します。そのうえで、連絡を取りたい相続人の戸籍の附票を取り寄せると、現在の住所が記載されているため、そこへ手紙を出して連絡を試みることができます。長く音信不通だった相手でも、この方法で住所が分かり、話し合いにつながることは珍しくありません。

こうした戸籍や戸籍の附票の収集は、行政書士がお手伝いできる範囲です。まずは相手の所在をつかむところから始めるのが、遠回りに見えて確実な一歩になります。

3. 所在は分かるが協力してくれないとき

住所は分かっていて手紙も届いているのに、返事がない、あるいは遺産分割協議書への署名・押印に応じてくれない、という場合があります。相続人同士の関係がこじれているケースでは、これが一番の悩みどころになります。

話し合いでどうしても合意に至らないときは、家庭裁判所の遺産分割調停という手続きを利用する道があります。裁判所で、調停委員を間に入れて話し合いを進める手続きです。それでもまとまらなければ、審判という形で裁判所が分け方を定めることになります。こうした裁判所での話し合いや代理を伴う手続きは弁護士の領域となりますので、対立が深く当事者同士では解決が難しい場合には、その分野の専門家に相談する段階といえます。

4. 行方が分からないとき

住所を調べても所在がつかめず、どこにいるのか分からない、という場合には、不在者財産管理人という仕組みがあります。

行方不明の相続人に代わって財産を管理する人を家庭裁判所に選んでもらい、その管理人に遺産分割へ加わってもらうことで、手続きを前に進める方法です。詳しい流れは、相続人の一人が行方不明 — 不在者財産管理人で相続を進めるで整理しています。

5. 生きているかどうかも分からないとき

行方が分からないうえに、生死そのものが長い間はっきりしない、という場合には、失踪宣告という別の道があります。

生死不明の状態が一定期間続いたときに、家庭裁判所の手続きを経て、その人を法律上亡くなったものとして扱い、相続関係を整理する制度です。こちらの詳しい要件や進め方は、生死が長く分からない相続人がいる — 失踪宣告で相続を進めるにまとめています。

6. 早めに整理しておきたいこと

どの状況にあたるかを見極めるためにも、次の点を先に整理しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。

  1. 相続人が誰なのかを、戸籍をたどって確定する。連絡が取れない相手を含め、相続人の範囲がはっきりしないと、次の一手が定まりません。
  2. その相手の所在を、戸籍の附票などで調べられるところまで調べる。所在が分かれば、手紙による連絡で解決することもあります。
  3. 相続財産の全体像を把握する。何がどれだけあるのかが分かっていると、手続きの規模や、かける手間の見当がつきます。

これらを整理したうえで、所在がつかめない、生死が分からないといった段階で、家庭裁判所への申立てという次の手立てを検討していくことになります。

7. まとめ

相続人と連絡が取れなくても、相続手続きが永久に止まってしまうわけではありません。連絡先を知らないだけなら所在を調べて連絡する、所在は分かるが協力を得られないなら家庭裁判所の手続きを検討する、行方が分からないなら不在者財産管理人、生死が長く分からないなら失踪宣告――と、状況に応じた道が用意されています。大切なのは、自分がどこでつまずいているのかを切り分け、それに合った手立てを選ぶことです。

行政書士杉山翔事務所では、相続人の確定に必要な戸籍の収集や、相続財産の整理といった、相続手続きの土台づくりのご相談を承っております。「連絡の取れない相続人がいて、何から手をつけていいか分からない」といった段階でのご相談も歓迎しております。

ご相談はお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

※ 本記事は民法を参照して作成しています。手続きの要件や必要書類は個別の事情により異なりますので、具体的な進め方については家庭裁判所や各専門家にご確認ください。