令和8年(2026年)6月から、障害福祉サービス事業所における処遇改善加算が大きく見直されます。

「今回どこが変わるのか」「自事業所として何を考えればよいのか」を、要点に絞って整理しました。

1. 全体像 — 何が変わるか、ひと言で

今回の見直しの中心は、障害福祉に従事する職員の賃金を底上げすることです。

具体的には、以下の3つを同時に進めます。

  • 賃上げの規模:福祉・介護職員について、月1.0万円(加算率+3.3%)相当の引上げを実施。
  • 対象の拡大:これまで「福祉・介護職員」に限定されていた処遇改善加算の使い道を、障害福祉従事者全体に広げる。
  • 取組の強化:生産性向上や協働化に取り組む事業所には、さらに月0.3万円(+1.0%)相当の上乗せを用意。

定期昇給分(月0.6万円)も含めると、福祉・介護職員ベースで最大月1.9万円(+6.3%)の賃上げが成立する設計になっています。

2. 加算区分が「Ⅰ〜Ⅳ」から細分化される

これまでの加算区分は Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ の4段階でしたが、改定後は次のとおり6区分になります。

改定前改定後補足
加算Ⅰ加算 Ⅰイ / Ⅰロ「ロ」が新設。生産性向上・協働化に取り組む事業所向けの上乗せ区分
加算Ⅱ加算 Ⅱイ / Ⅱロ同上
加算Ⅲ加算Ⅲ維持
加算Ⅳ加算Ⅳ維持

「ロ」区分は新設で、生産性向上の取組(業務の見える化、業務支援ソフトの導入 等)や、社会福祉連携推進法人への所属による協働化を一定以上行っている事業所が、上位の加算率を取得できる仕組みです。

3. 「対象が障害福祉従事者全体」に拡大される意味

ここが今回の改定でもっとも大きな変化です。

これまで処遇改善加算は 「福祉・介護職員」だけが対象 でした。事務職員や送迎ドライバー、栄養士、看護職員、サービス管理責任者など、福祉・介護職員以外の方にこの加算原資を直接配分することはできなかったわけです。

今回の見直しで、加算の使い道が 「障害福祉従事者」全体 に拡大されます。これにより、事業所運営を支えている職員全員を対象に賃金改善計画を組み立てられるようになります。

ただし、加算原資の配分の考え方には引き続きルールがあるため、どの職員にいくらずつ配分するかの設計は事業所の重要な経営判断になります。

4. 「相談支援」が新たに対象になる

これまで処遇改善加算の対象外だった 計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援にも、新たに処遇改善加算が新設されます(加算率 5.1%)。

相談支援事業所を運営されている方は、新たに届出を行うことで処遇改善加算を取得できるようになります。

5. 「ロ」を算定する場合の最重要ポイント

加算Ⅰロ・Ⅱロを算定する場合、令和8年度の特例要件として、次の「ア・イのいずれか」と「ウ」の両方を満たす必要があります。

  • ア)職場環境等要件の生産性向上に関する取組を5つ以上実施(特定項目は必須)
  • イ)社会福祉連携推進法人に所属している
  • ウ)加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を月給で配分

ア・イについては、取組の整備や所属の検討で対応できる範囲なので、必要な準備期間を確保すればクリアできます。問題はウです。これがロ区分を狙う事業所にとって最大のハードルになります。

ウ)「加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を月給で配分」が意味するところ

これまでの処遇改善加算では、月額賃金として配分するのは加算Ⅳ相当額の1/2以上で済んでいました。これは処遇加算額全体でいうと概ね3分の1程度です。つまり残りは一時金(賞与等)で配分する自由度が、事業所に残されていたわけです。

ところが改定後、ロ区分(Ⅰロ・Ⅱロのいずれも)を算定する場合は、加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を「月給」で配分することが要件になります。これは処遇加算額の約2分の1を、毎月の給与で固定的に支給することを意味します。

一時金中心の事業所には、資金繰りの再設計が必要になる

これまで処遇改善加算を一時金(賞与)でまとめて配分してきた事業所にとっては、相当大きなインパクトがある変更です。

毎月の給与に乗せるということは、月々のキャッシュアウトが固定化されるということです。業績が思わしくない月でも引き下げにくい性質の支出になりますし、賃金規程の改訂、社会保険料への影響など、付随して動かす論点も増えます。

「ロが取れれば加算率が上がるから取っておこう」というのは自然な発想ですが、実際の運用で月々の支払いに耐えられるか、一時金との配分比率をどうリバランスするか、丁寧に試算する必要があります。

上位区分を目指すかは、事業計画とセットで考える

ロを算定するかどうかは、加算率の数字だけでなく、事業所の資金繰り・職員の賃金構造・今後の人員計画まで含めて判断するテーマです。

「念のため上位を狙っておく」という気軽な決め方は避け、現状の支給スタイルと今後の経営方針を踏まえて、必要であればロを取らずにイ区分にとどめる選択肢も含めて検討するのが現実的です。

なお、ア・ウの一部要件は「令和8年度中に対応する」と誓約することで先取りでの算定も可能で、実績報告書で対応の実施が確認される仕組みです(未対応が確認された場合は加算額の一部または全部を返還)。準備期間に余裕がない場合の救済措置として用意されていますが、誓約で取った以上は年度中の確実な実行が前提になります。

6. まず押さえておきたい3つのこと

専門的な要件の整理は届出時に詰めていけばよいので、今の段階で押さえておきたいのは下記です。

6-1. 自事業所の現状区分と、新区分での目標を決める

  • 今、どの区分で算定しているか?
  • 改定後、どの区分(特に「イ」と「ロ」のどちら)を目指すか?
  • 「ロ」を目指すなら、月給配分の見直し、生産性向上の取組、協働化に向けた段取りが必要

6-2. 賃金改善計画を「障害福祉従事者全体」で再設計する

対象が拡大されることで、これまで対象外だった職員にも配分できるようになります。「誰に・いくら・どう配るか」を一から見直すタイミングです。

6-3. 令和8年6月の施行に向けたスケジュールを押さえる

施行は令和8年6月。届出スケジュール・計画書の作成・職員への説明・賃金規程の改訂を逆算して、今のうちから動き始めるのが安全です。

7. まとめ

今回の改定はキャッチアップが必要な変更が多い一方で、自事業所の体制と工夫次第で、より上位の加算率を狙える設計でもあります。

特に「ロ」区分の新設と対象職員の拡大は、事業所運営の根幹に関わる変化です。早めに状況整理を始めることで、令和8年度の賃金改善計画を有利に組み立てられます。

行政書士杉山翔事務所では、処遇改善加算の計画書作成・実績報告のサポートを承っております。「自事業所の現状で『イ』と『ロ』のどちらが狙えるか試算したい」「賃金改善計画の組み直しを相談したい」といった切り口でも構いません。

ご相談はお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。


※ 本記事は厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(令和8年2月18日 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム)を参照して作成しています。最新の告示・通知は厚生労働省および各都道府県・市区町村の発表をご確認ください。