令和8年6月から施行される処遇改善加算の改定では、区分の細分化、対象職員の拡大、ロ区分での月給配分要件など、押さえておくべき変更点が複数あります。
本記事では、改定後の処遇改善計画書を実際に作成するときの流れを整理します。区分判定から要件確認、様式記入までを3段階に分け、それぞれの段階で指導の場面で指摘されやすい論点も併せて取り上げます。
1. 計画書の位置付けを再確認する
1-1. 計画書と実績報告書はワンセット
処遇改善加算は届出制の加算ですが、届出にあたって提出するのが処遇改善計画書です。事業所が「対象職員にどのような賃金改善を行うか」を年度はじめに事前報告し、年度終了後に実績報告書で達成状況を報告するという流れになっています。
計画と実績の両方が揃って初めて加算が確定する仕組みなので、計画書の段階で曖昧な記載をしていると、実績報告で要件を満たさないことが確認された場合に加算額の返還につながる可能性があります。
1-2. 令和8年改定で計画書はどう変わるか
改定にあたって、計画書のフォーマットそのものも見直されています。具体的には次の点を押さえておく必要があります。
- 区分欄が「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ」から「Ⅰイ/Ⅰロ/Ⅱイ/Ⅱロ/Ⅲ/Ⅳ」の6区分に対応
- 対象職員の範囲が「福祉・介護職員」から「障害福祉従事者全体」に拡大
- ロ区分を選択する場合の追加要件記載欄(生産性向上の取組・月給配分試算)
最新の様式は厚生労働省および都道府県の発出通知でご確認ください。自治体ごとに添付書類のローカルルールがあるため、提出先のガイドラインも事前に確認しておきます。
2. 第一段階 — 自事業所の区分判定
2-1. 改定前後の区分の対応を確認する
まずは現時点で算定している区分が、改定後にどの区分につながるかを整理します。
| 改定前 | 選択肢(改定後) |
|---|---|
| 加算Ⅰ | Ⅰイ(自動移行) / Ⅰロ(追加要件を満たした場合) |
| 加算Ⅱ | Ⅱイ(自動移行) / Ⅱロ(追加要件を満たした場合) |
| 加算Ⅲ | Ⅲ(維持) |
| 加算Ⅳ | Ⅳ(維持) |
ⅠまたはⅡを算定している事業所は、改定後の区分として「イ」と「ロ」のいずれを目指すかを判断することになります。Ⅲ・Ⅳを算定している事業所は維持か上位区分への移行かが論点ですが、ここでも要件確認の作業は同じです。
2-2. イとロの判断軸
「ロ」は加算率が上がる代わりに、生産性向上・協働化の取組と、月給配分の比率引上げが要件になります。判断軸を整理すると以下のようになります。
- 加算率は上がるか:上がります。ただし要件達成のための内部コスト(業務改善・賃金規程改訂など)も発生します
- 月給配分要件を満たせるか:ロを選択する場合、加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を月給で配分する必要があります。一時金中心で配分してきた事業所は資金繰りに大きな影響が出る可能性があります
- 生産性向上の取組を継続できるか:ロは「5つ以上の取組」を実施・継続することが要件です。一時的な対応では足りず、年度を通じた運用が前提になります
「念のため上位を狙う」という発想は避け、月給配分の試算と取組の実行可能性を踏まえた上で、ロかイかを決めるのが現実的と考えられます。
2-3. ロを選ぶときの「誓約算定」のリスク
令和8年度に限り、生産性向上要件の一部や月給配分要件について、「年度中に対応する」と誓約することで先取りで算定する仕組みが用意されています。準備期間が確保できない場合の救済措置ですが、年度中に未対応が確認された場合は加算額の一部または全部を返還することになります。
誓約で算定する場合は、年度中の実行体制を計画書の中で具体的に記載しておくことが、後々のリスクを下げることにつながります。
3. 第二段階 — 対象職員と配分の棚卸し
3-1. 対象職員リストの作成
改定後、計画書の対象職員リストには「障害福祉従事者全体」を記載します。これまで対象外だった職員も含めて、漏れなく拾い上げる作業が必要になります。
- 福祉・介護職員(従来から対象)
- 事務職員、送迎ドライバー
- 看護職員、栄養士、調理員
- サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者
ここで注意が必要なのは、職種の名称ではなく実際の業務内容で判断されるという点です。たとえば「事務職員」と登録されていても、実態として送迎業務や直接支援に従事している場合は、その実態に沿って整理しておくと指導の場面で説明しやすくなります。
3-2. 配分シート(別紙)の設計
計画書には、職員ごとの賃金改善見込額を記載する別紙(配分シート)が付属します。ここで設計するのは次の3点です。
- 月給で配分する金額(ロ区分では加算Ⅱロ相当額の1/2以上)
- 一時金で配分する金額
- 配分の根拠(基本給への上乗せ、手当の新設、賞与算定基礎の改定など)
配分の根拠は、賃金規程との整合が取れていることが前提です。計画書だけ書き換えて賃金規程が古いままだと、実績確認時に「規程と異なる支給がされている」と指摘される可能性があります。
3-3. 既存の賃金改善計画との接続
これまで福祉・介護職員を対象に組んでいた賃金改善計画があれば、それを破棄するのではなく、対象職員を拡大する形で組み直すのが自然です。これまでの計画で何を達成してきたかを記録として残しておくと、改定後の計画書の説明にも厚みが出てきます。
4. 計画書作成で引っかかりやすい誤り
4-1. 誤り① 月給配分の試算誤り
ロ区分の月給配分要件は「加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上」です。ここでつまずきやすいのが、自事業所の実加算額と「Ⅱロ相当額」を混同してしまうケースです。
「Ⅱロ相当額」は要件判定のための参照値であって、自事業所が実際に受け取る加算額そのものではありません。実加算額は利用者数や算定単位数で月ごとに変動するため、計画書の段階では概算で構いませんが、「何を基準に1/2を計算しているか」を計画書の中で明示しておくと、実績確認の段階で説明がスムーズになります。
4-2. 誤り② 生産性向上要件の取組の数え方
ロ区分では、職場環境等要件の生産性向上に関する取組を5つ以上実施することが求められます。ここで論点になるのは、ひとつの取組を複数項目に二重計上していないか、類似の取組を別項目として水増ししていないかという点です。
計画書に記載する取組は、年度中に実際に実行できるか、職員に説明できるか、記録として残せるかという3点で点検しておくのが安全です。誓約で算定する場合は特に、未実施が確認されると返還の対象になります。
5. 第三段階 — 様式記入と提出
5-1. 添付書類のチェックリスト
計画書本体のほかに、自治体ごとに次のような書類の添付を求められることがあります。
- 賃金規程(改訂後)
- 配分シート(別紙)
- 生産性向上の取組内容を示す資料
- 職員への周知方法を示す資料
提出前に、提出先自治体の最新ガイドラインで添付書類のリストを照合しておきます。
5-2. 提出期限
原則として、定期届出および新規届出の届出期限は、算定を受けようとする月の前々月の末日です。具体的な期限や様式の運用は提出先自治体によって異なるため、最新のガイドラインでご確認ください。
6. 計画書作成前に確認しておきたい3点
- 改定後の目標区分を決める — 現状区分から「イ」と「ロ」のどちらに進むか、月給配分試算と生産性向上の取組の見通しを踏まえて意思決定する
- 対象職員を漏れなくリスト化する — 職種名ではなく実態で判断し、賃金規程との整合も併せて点検する
- 提出先自治体の最新ガイドラインを確認する — 様式・添付書類・提出期限はローカルルールがあるため、最新版での照合を欠かさない
7. まとめ
処遇改善計画書は、加算算定の根拠となる重要書類です。計画と実績がセットで評価される仕組みである以上、計画書の段階での記載の精度が、年度末の実績確認や万一の指導対応の場面に直結すると考えられます。
令和8年改定では区分が細分化され、対象職員も拡大しています。これまでの計画書をそのまま使い回せる場面は限定的なので、現状の整理から計画の組み直しまで、少し腰を据えて取り組む必要が出てきます。
行政書士杉山翔事務所では、処遇改善加算の計画書作成・実績報告のサポートを承っております。「現状の区分から、どの区分を狙うのが現実的か試算したい」「配分シートの組み立てを相談したい」「自治体ごとのローカルルールに合わせて書類を整えたい」といった段階のご相談こそ大歓迎です。
ご相談はお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
※ 本記事は厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(令和8年2月18日 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム)および関連通知を参照して作成しています。様式・要件・提出期限の詳細は、厚生労働省および各都道府県・市区町村の最新の発表をご確認ください。