「うちは相続税の申告が必要なのでしょうか?」というご質問は、相続のご相談で最も多く伺うもののひとつです。実際には多くのご家庭で基礎控除の範囲内に収まり、申告は不要となるケースも珍しくありません。一方で、税額がゼロになる見込みでも申告書の提出が必要となる特例もあり、判別を見誤ると後で慌てることになります。
本記事では、相続税の申告が必要かどうかを判別するための基本的な考え方を整理します。
1. まずは基礎控除を計算する
相続税の申告要否を判別する出発点は、基礎控除額の計算です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数(相続税法15条)
たとえば法定相続人が配偶者と子2人の合計3人なら、基礎控除は4,800万円となります。遺産総額がこの金額を下回っていれば、原則として相続税の申告は不要です。
なお、この基礎控除額は2015年(平成27年)1月に大幅に引き下げられました。改正前は「5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数」でしたので、現在は申告対象となるご家庭が以前より広がっています。
2. 遺産総額に含めるもの・控除されるもの
基礎控除と比べる「遺産総額」には、現預金以外にも幅広い財産が含まれます。
遺産総額に含めるもの
- 預貯金
- 不動産(土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額)
- 上場株式・投資信託等の有価証券
- 生命保険金(500万円 × 法定相続人の数までは非課税)
- 死亡退職金(500万円 × 法定相続人の数までは非課税)
- 一定期間内の生前贈与(暦年贈与は段階的に相続開始前7年以内へ拡大中、相続時精算課税による贈与は選択時点からすべて)
控除されるもの
- 葬式費用
- 住宅ローン等の債務
土地の評価額は実勢価格ではなく路線価で計算するため、ご家族が感じている資産規模よりも控えめに出ることが多い点も覚えておくとよいでしょう。
3. 「税額ゼロでも申告が必要」な特例に注意
判別で見落とされやすいのが、特例の適用に申告書の提出が必須となるケースです。
主なものは次の2つです。
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配偶者の税額軽減(相続税法19条の2) 配偶者が取得した遺産については、1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。ただしこの軽減を受けるためには、相続税の申告書を期限内に提出する必要があります。
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小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4) ご自宅の敷地などについて、最大330平米まで評価額を80%減額できる特例です。これも適用には申告書の提出が要件となっています。
これらの特例を使うことで結果的に税額がゼロになるケースは多いのですが、「税金がかからないから申告も不要」というのは誤解です。特例を適用するためには、必ず申告書を出す必要があります。
4. 判別の進め方
実際の判別は、おおむね次の順序で進めます。
- 遺産の全体像(預貯金・不動産・有価証券・保険金等)を概算でつかむ
- 法定相続人の数を確定し、基礎控除額を計算する
- 遺産総額(債務・葬式費用を差し引いた金額)と基礎控除を比較する
- 基礎控除に近い、あるいは特例適用の可能性がある場合は、早めに税理士へ相談する
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。10か月は一見余裕があるように見えますが、戸籍の収集や遺産の確定、遺産分割協議などを並行して進めることを考えると、決して長くはありません。判別段階でグレーであれば、早めに専門家のご意見を伺うのが安心です。
5. 行政書士と税理士の役割分担
相続税の申告書作成・税額計算は税理士の独占業務です。行政書士が直接申告書を作成することはできません。
一方で、申告に先立つ財産目録の整理、戸籍の収集、相続人の確定、遺産分割協議書の作成といった部分は、行政書士が支援できる領域です。判別段階での全体整理から、必要に応じて税理士へスムーズに引き継ぐ流れを設計することで、ご家族の負担を抑えることができます。
当事務所では税理士事務所での相続税申告業務に携わった経験を踏まえ、判別段階の整理から税理士への引き継ぎまでを一貫してご支援できる点が、相続税まわりのご相談での特徴になっています。
6. まとめ
相続税の申告要否は、基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)との比較を出発点に判別します。多くのご家庭では基礎控除内に収まり申告は不要ですが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合は、税額ゼロでも申告が必要となる点に注意が必要です。
判別段階でグレーな場合や、特例適用の見込みがある場合は、申告期限10か月を見据えて早めに動き出すのが安心です。
行政書士杉山翔事務所では、税理士事務所での相続税申告業務に携わった経験を踏まえ、相続税の申告要否の整理、財産目録の作成、戸籍収集、遺産分割協議書作成のご相談を承っております。「申告が必要かどうかだけでも整理したい」段階のご相談も歓迎いたします。申告書作成や具体的な税額計算が必要な場面では、提携の税理士をご案内いたします。
ご相談はお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
※ 本記事は相続税法(第15条・第19条の2・第27条)、租税特別措置法第69条の4、国税庁「相続税の申告のしかた」を参照して作成しています。具体的な税額計算や個別事案に関するご判断は、税理士または所轄税務署にご確認ください。